攻撃的GK – 2003.2.27

攻撃的GK – 2003.2.27
  ※本コラムは昔運営していた川口能活ファンサイト(深海)で掲載していたコラムを再掲したものです。一部内容が古い可能性がありますがご了承ください。  

川口を形容する言葉として、「攻撃的GK」というものがある。しかし、多くの人がこの言葉を誤って解釈している気がする。「攻撃的GK」といえば、元パラグアイ代表のチラベルを思い浮かべる人が多いだろう。FKの名手で、PKを含め過去に30ゴール以上を決めている。攻撃に参加するこのGKを「攻撃的GK」と呼べるということはまぁ間違いないだろう。でもこれはただのファンサービスというか話題作りというか、そういうものに過ぎないと思う。チラベルがFKのため上がっていって、失敗した場合、チラベルが定位置まで戻る間、ゴールはがら空きである。その時間稼ぎのためにファウルを犯し、フィールドプレーヤーが警告を受ける、といったシーンは珍しくない。いくらチラベルがFKの名手とはいえ、わざわざGKが責めあがることはリスクが大きすぎるのだ。しかし、まぁ見てる方は楽しいから、いいんだけどね。

同じ「攻撃的GK」と呼ばれながらも川口のプレースタイルは大きく異なる。多くの人は、川口の持ち味の一つである、守備範囲の広さ、つまりクロスボールへの積極的な対応や、前へ出るプレーを見て、「攻撃的」と呼ぶのだろう。もちろん、飛び出している間ゴールはがら空きで、それに対して「不安定」というレッテルを貼る人が多かったのではないか。でもそれはただ単に、「攻撃的GK」川口の本質が見えていないだけである。
居心地のいいところに座り込んで、降りかかってくる災難を振り払ってるだけでは、人は前に進めない。それはあくまでその場しのぎに過ぎなくて、結局は人間的な成長にはつながらないと思う。災難の中にあっても、1mでもたとえ50cmでも、立ち上がって前に進もうとしなくては。進学する学校を決めることは、人生の中でも大きな分岐点の一つだったはず。どの学校に行きたいかなんて、どれの選択が一番ベストであるかなんて正直そう簡単に結論が出る問題じゃない。そこで敢えて結論を出さなくても、最終的には自分の学力などによって自然と絞られてきてしまって、なんだかんだで決まってしまうことも多い。それはそれでいいのかも知れないけど、そうして選んだ学校にきた人と、人以上に悩んで苦しんで、その結果自分で選んだ学校にきた人とでは、きっと進学した後が違ってくるんだと思う。たとえ、周り道をしたって、座り込んでいる人よりは、確実に大きくなれるんだろう、と。

日本に残っていたって、成長することはできたと思う。マリノスでそれなりの地位を築き上げてきていた川口は、チームを引っ張る存在としていろいろな経験ができたかも知れない。また、イングランドへの移籍して試合出場の機会を奪われなかったらワールドカップにも出られて、そこでまた新しい収穫があったかも知れない。川口は、ワールドカップ前にJリーグのチームからのオファーがあったにも関らず、ポーツマスに残留することを決意した。ある程度の地位が保証されてる日本に戻ること、かつて居心地の良かった日本の芝のゴール前に戻って、そこにしゃがみこんでしまうことは簡単だったけど、川口は傷つきながらも、さらに歩き回ることを決意した。それが長い目でみたら大きく自分を成長させてくれることを本人が一番よくわかっているから。それをアマチュア的な考えとバカにする人がいるかも知れない。プロならば、試合に出て、結果を出せる場所にいるべきだ、と。でも川口が目指してるのは、そんな程度のレベルのGKじゃないから。川口は若いころから口癖のようにいってたでしょ。「GKの寿命は長い」と。目先の1億円が欲しいわけじゃなくて、将来、世界でのトップクラスを目指すには、今は立ち上がって歩きまわる必要があるのだと思う。

川口というGKのプレースタイルは、そんな川口の生き方そのものなような気がします。ゴールに無造作に向かってくるシュートを止めるだけだったらきっと日本の他のキーパーと比べても大きな差はないのでしょう。でも、GKはただ、ゴール前でシュートがくるのを待ってるだけじゃない。DFを自分の思い通りに動かして、シュートコースを狭めて、自分の思ったところにシュートを打たせたり、外れるシュートの見送り方一つで相手にプレッシャーを与えることだってできる。ボールのフィードだって、緩急をつけることによって、相手のリズムを狂わせることができる。ゴールキックでギリギリまで時間を使うことによって相手を焦らせることだってできる。その結果、相手が外したシュートは、目には見えないけれど、DFのさらに後ろ、チームの最後尾に陣取るGKができるせめてもの攻撃の成果なのです。もちろん、それに加えて積極的に前に飛び出すプレーや相手に威圧感を与える声。それらを全てひっくるめて「攻撃的GK」川口能活なのです。川口のはるか頭上を越えていくシュートや正面に飛んでくるシュート。これらは相手のただのミスじゃない。これこそが川口の生き方に裏づけられた攻撃的スタイルの成果なのです。だから彼のプレーは魅力的なんだ。

ただゴール前にしゃがみこんでるだけのGKにはシュートは正面に飛んでこないのです。