キャッチング – 2004.8.10

キャッチング – 2004.8.10
  ※本コラムは昔運営していた川口能活ファンサイト(深海)で掲載していたコラムを再掲したものです。一部内容が古い可能性がありますがご了承ください。  

アジアカップ中国2004、予選リーグ第3戦、後半36分。 イランの猛攻の中、8番カリミの左サイドからのロングシュートが日本ゴールを襲う。 グラウンダーのシュートは川口の守るゴールの左隅を正確に突いてきた。 川口はこれを素晴らしい反応で止めたばかりでなくボールをその両腕でキャッチした。 しかし、キャッチしたままゴールラインを割ったと判断した線審はCKの判定。 これに対して、これまでずっと冷静にプレーしていた川口が猛抗議する。 この日既に警告を一枚もらっている川口はすぐに冷静さを取り戻しCKの守備に頭を切り替えたが…

川口能活はなぜ怒ったのか。
GKがキャッチングすることには大きな意味がある。 クロスボールはひとつ目を跳ね返してもすぐに次のピンチがやってくることが多い。 パンチングで逃げたのでは、DFがヘディングでクリアしたのと大差ない。 完全に相手の攻撃を終わらせるには、キャッチング以外にないし、キャッチングすれば、 逆にそこから次の攻撃への第一歩となることができる。シュートの場合はもっとタチが悪い。 素晴らしい反応で1本目のシュートをはじきだすことに成功しても、 2本目のシュートをつめられてしまったら、失点は失点。 1本目のセーブは全く意味のないものになってしまうのだ。 例えその1本目が自分の中でどんなにお気に入りのセーブだとしても、 客観的に見て素晴らしい反応だとしても、である。対応策は二つ。 1.はじく方向をうまく調整してコーナーに逃れる。2.キャッチする。 しかし、コーナーキックが3本に1本は決まると言われているピンチであることを考えると、 やはりキーパーがキャッチすることが最も望ましい。

しかしながら、 GKがフィールドプレーヤーには与えられない特権として与えられたキャッチングとは、 GKが最も緊張する瞬間かも知れない。 キャッチングは大きなリスクを伴うのだ。 ハイボールでいえば、万が一ゴール前でボールをこぼしてしまえば それが即失点につながるのは明らかだ。 GKにとって誰が見てもミスらしいミスの一つだ。 シュートをキャッチミスするのは論外。キャッチにいくには、 両手を差し出す必要があるので、守備範囲が狭くなるばかりでなく、 もし後ろに反らせば当然相手のスコアボードに1点が加わることになるし、 仮に前にこぼしたとしても、それは考えられるもっとも最悪な位置にボールをはじくことになる。 貪欲にゴールを狙ってくるFWが一人いたら、 その彼にイージーなゴールをプレゼントすることになるだろう。 予選リーグ1位突破がかかって、しかも先制点が決勝点となる 可能性の高い張り詰めた状況ではなおさらである。

正直、ハイボールもシュートもよっぽどイージーでなければ、 とりあえずはじいておけば文句は言われない。 無理してキャッチにいってミスって文句を言われるよりは、 はじいておく方が無難というものである。そうすれば目に見えるミスも減るし、 「安定感」というGKを批評する上でなぜか欠かせなくなっている評価を頂くこともできる。 川口はキリンカップやアジアカップのそれまでの戦いで既に高評価を得ていた。 正GK奪回!とまで報道された。今更ここでミスをしたら、 せっかく上り調子のこの評価をまた下げることになるのは明白である。 でも後半36分、川口はこのシュートをキャッチにいった。 渾身の力を込めて打ったシュートをキャッチすることが相手に与えるショックは少なくない。 また、FKやCKの連続、押されっぱなしの状況で流れを変えるには相手の攻撃を完全に シャットダウンする「GKのキャッチング」が必要だったのだ。 川口の頭の中には3戦全勝による予選リーグ突破しかなかった。 このシュートを万が一後ろにそらして相手に1点を献上してしまえば、 おそらくあの状況から逆転することは不可能に近かった。しかし、 勝利のために、流れを変えるために、川口はキャッチにいく判断を下した。 川口はリスクを負った。そして勝った。 普段の練習のたまものである細かく軽やかなステップからのセービングが 完全にボールを包み込んだ。そこにキーナーキックの判定である。

そらーキレるわ(笑)実際ラインを割っていたかどうかはテレビ中継からではわからんけど、 本人が出てないっていうんだから、きっと出てないっしょ。 このプレー、個人的に今大会ナンバー1プレーなんじゃないかとすら思ってます。