※本コラムは昔運営していた川口能活ファンサイト(深海)で掲載していたコラムを再掲したものです。一部内容が古い可能性がありますがご了承ください。
川口のすごさを感じた試合を感じた試合を思い浮かべて欲しい。多くの人はアトランタオリンピックのブラジル戦とかアジアカップのサウジアラビア戦を思い出し、あのプレーはすごかった、と再び感動するはずだ。しかし、GKにとって、攻められる時間が多い試合は、比較的集中しやすく、体も動くからやりやすい。逆に難しい試合は、ほとんどボールがこない試合。GKは与えられた持ち場を容易に離れるわけにはいかないので、陣地にボールがあるときはボールに触れる手段がない。ボールに絡むことができない中、気持ちを試合にだけ集中しつづけることは並大抵のことではない。90分間のうち、集中の切れる時間帯が出てきてしまうのは仕方のないことだといえる。そう並のGKであったら・・・(笑)
体育でマラソンを走ったことを思い出して欲しい。走ってるうちはそんなに疲労は気にならないけど、一度止まってしまうと、一気に疲労がきてしまい、もう一度走り出すのがつらい、という経験を多くの人がしていると思う。GKはこれの繰り返しである。相手が格上のチームでもない限り、試合においてGKの仕事と仕事の間にはかなり時間があるものだ。その間ずっとエンジンをかけ続けているのは難しいので、1つ仕事を終えたら一度エンジンを切って、次の仕事のときにもう一度エンジンをかけなおすことになる。この繰り返し。これにはすごい集中力が必要で、精神的に疲労する。ボールがあまりこなかったからと言ってそれがGKに取って楽な試合というわけではなく、むしろそういう試合の方が精神的には何倍もつらい。ときには、ボールが全然こない長い時間の中で集中力が切れて、エンジンがうまくかからないことも多々あるものだ。そう並みのGKであったならば・・・(笑)
川口は並のGKじゃない。西川昭策さんが書いた「魂のゴールキーパー川口能活(ラインブックス)」という本の中に川口の集中力に関する高校時代のエピソードが書いてあった。川口は高校時代、日本閣という西川さんが営む寮で生活していた。練習が終わってから食事までのわずか15分くらいの時間、みんなが漫画を読んだり、騒いだりしている中、川口はいつも独り壁によりかかっていたそうだ。激しい練習で疲れたのかな、と西川さんが川口に近付いてみると何やらブツブツつぶやいていた。川口の手には英単語帳。たった15分の短い時間を利用して、英単語を覚えていたのだ。また他の日には手に数学の教科書があったり、とにかくいつも、空き時間みんなが話したり騒いだりしている中、休むことを知らずに勉強をしていたらしい。この当時から川口の集中力は並外れていたというエピソードである。
川口の集中力は試合でも90分間途切れることを知らない。例えば、2002年3月24日のポーランド戦。試合は日本が圧倒していたが、後半の最後でピンチが訪れた。並のGKならばとっくに集中力が切れていてもおかしくないシーンで、難しいヘディングシュートを見事に右手ではじきだしたシーンは記憶に新しい。川口のすごさは、こういったあまり攻められなかった試合でも確実の無失点に抑えることができるところにあると思う。逆に10月のジャマイカ戦。この試合も中盤の黄金カルテットの活躍もあって、試合は日本が圧倒していたが、最後の最後で失点し、結局引き分けてしまった。GKは楢崎。たしかに至近距離からのシュートで取るのは難しいシュートではあった。そしてその前の段階のDFのミスも大きい。しかしコースは甘く楢崎も両手で触ることができていた。普段の楢崎なら取れていただろう。しかし、楢崎の体はしばらくボールに触れていないことによって、完全にエンストを起こしていたのだ。シュートの瞬間、GKは左右に同じだけの体重をかけ止まっていなければいけないのが基本。しかしあのシーンで楢崎の体重は完全に左にかかっていた。それゆえ彼の右側にきたコースの甘いシュートも完全にはじき出すことができなかったのだ。楢崎クラスのGKならば、あのシュートを止める能力は持っているだけに、集中力が切れていたことが原因でシュートを取れなかったのは残念である。そう、川口だったら・・・と思わずにはいられない。