コラム

winter comes around again - 2003.4.10

長かった冬がようやく終わって、春の甘い香りを少しだけ感じた。しかし。

 

 

 

 

3月28日。日本代表vsウルグアイ代表。川口はこの試合で大きなミスを犯してしまった。たった一つのミスでも失点につながってしまえば致命傷。GKというのは、そういえばそういうポジションだった。前半25分。左からのCKを川口がキャッチミス。結果的にその1点が勝ちか引き分けかを決定づける大きな1点となってしまった。このミスが意味するところは大きい。所属チームでは実に15ヶ月間もトップでの試合に出ていない川口。「GKの試合勘」についてなんて今まで考えたこともなかったようなやつが、ここぞとばかりにいう。「GKは試合で出てナンボの世界。川口は試合勘が鈍っている」そんな声が川口の耳に入らなかったわけもないだろう。Jリーグからのオファーもなかったわけじゃない。そりゃあ試合に出れないよりは出れた方がいいに決まってるけど、川口はイングランドから出ることを頑なに拒否した。「ここから逃げたらすべてが終わる」と。そんな中、日本代表ジーコ監督は、川口に出場機会を与えてくれた。この1年3ヶ月という気の遠くなるような長い期間、積み重ねてきたものを発散する場所を、周りの雑音を実力でふきとばすチャンスを、ジーコは与えてくれた。一瞬本当に神様に見えたね。でも、ふたを開けてみれば、あのたった一つのミスで「やはり試合勘が…」という格好の非難の的になっただけだった。再び冬の到来を感じた。

さすがに泣いた。あのミスはやっぱりショックだった。でも安心した。本人が一番ショックであるはずの失点後も、川口は平常心を保ってプレーを続けていた。少なくともそう見えた。ミスの直後のクロスボールに対しても積極的に飛び出していた。これはなかなか出来ないこと。それからクロスボールに対する守備範囲が確実に広がっていた。あまりに何気なく獲っているから気づかないことだけど、普通のキーパーなら確実に見送っているようなクロスボールを難なくキャッチで処理していた。動きの素早さ、判断の速さにさらに磨きがかかっていたのだ。それからすごかったのがレコバのFKに対する守備。普通のGKだったら確実にボールウォッチャーになってしまうような軌道を描いたシュートに対し、川口は人間離れした動きで食らいついていた。あれは反復練習によってしか身につけることのできないステップとセービングの技術があってこその動きだった。枠こそ外れていたから目立たなかったものの、もし枠にきていたら信じられないようなセーブが見られたかも知れない。川口はイングランドで多くのことを吸収しているんだ。ポーツマスに残った意味を川口は少なからず示してくれたのだった。そして何より、やはりこんなに見ててわくわくさせてくれるようなGKは他にないということを確信することができた。こんなにもゴール前が似合う男は、こんなにも日本代表のあの黒のGKユニが似合う男も他にいない。それを確認できただけでも、この3月28日という日はしあわせな一日でした。
どうやらGKというものを「ノッポで穏やか」としか定義ができない、川口能活というGKをどうしても認めることのできない人たちがいるらしい。今回の事件はきっとそんな彼らにとってはきっと、ペディグリー・チャムよりもおいしいエサになったのでしょう。本人が一番傷ついている、という簡単なことさえ気づかずに、無心にそのエサにがっつく人たちが少なからずいることも分かった。意外と敵が多いらしい。今年はまだ、長い長い冬が続きそうな予感を感じています。

ポーツマスの冬は寒くて長い(らしい)。でも、今までだって長い長い冬を耐え抜いてきているんだ。今更またちょっとその冬が伸びたからって枯れてしまうほど弱くない。冬は、春に花を咲かせるために地面の下に根を伸ばす期間。大きな花を咲かせるためには、時間をかけて広く大きく根を伸ばす必要があるんだ。

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