※本コラムは昔運営していた川口能活ファンサイト(深海)で掲載していたコラムを再掲したものです。一部内容が古い可能性がありますがご了承ください。
GKの技術のうち、セービングなど、派手な技術の影に隠れてしまい、気づきにくいのが、「ポジショニング」だ。GKは基本的に、シューターからみて、ちょうどゴールの中心、つまり、ゴールの中心と、シュータを結ぶ線上にポジションを取る。その線上ならば、シューターに近付けば近付くほど、シュートコースは狭まり、シュートを止めやすくなる。しかし、シューターに近付けば近付くほど、ループシュート、つまりキーパーの頭上を抜かれるシュートを決められやすくなってしまう。そこで、理想のポジショニングとは、ゴールの中心と、シューターを結ぶ直線上で、ループシュートを打たれても、急いで戻ってシュートを止められるぎりぎりまでシューターに近付いた位置、ということになる。
と、まぁポジショニングの基本は上に書いた通りだが、このポジションの取り方は、相手FWの位置、スピード、相手やDFの数などたくさんの要素によって、微妙に違ってくる。そこで、GKは常に集中し、ポジションの微調整を試合を通して行い続けなければならないのだ。
川口は、このポジショニングの取り方抜群にがうまい。6月のコンフェデレーションズカップを通して、相手の強烈なシュートが度々川口の正面を襲ったのは記憶に新しい。あれは断じて、シュートがたまたま正面に飛んできた、というのではなく、川口が最高の、FWにとって見れば、最悪のポジションで構えていたからである。FWにとってみれば、川口の正面以外に打つところがなかったのである。
ポジショニングの重要な要素の一つに、間合いの詰め方、がある。シューターに近付けば近付くほど、シュートが止めやすくなる、というのは前述したが、やみくもに近付いていくだけでは頭の上を超えるシュートを打たれてしまう。川口は、相手FWがシュートを打てる体勢でいるときは、動かずにしっかり構え、シュートに備えている。しかし、逆に相手が、まだシュート体勢に入っていないギリギリのところまでは、間合いを詰めるため、ポジションを修正しているのがよく分かると思う。これは相手FWとのかけひきだが、FWはシュートに打つ前には必ずボールを見なければいけないので、川口から、目を離さざるを得ない。その隙に川口は間合いを詰めるので、FWにとってみれば、1つ前の瞬間にはあったシュートコースが、次の瞬間には川口の体によって完全になくなっているのだから、当然シュートは川口の正面にいってしまう。その良い例が、やはりコンフェデレーションズカップのカメルーン戦のエムボマとの1対1の場面だ。
「いいキーパーほど派手なセーブはしない」とよく言われる。それは、他ならぬ、ポジショニングのよさを指摘している。スーパーセーブがなかったから、「今日の試合は川口にとっては楽な試合だった」じゃなく、枠を外れていったシュート、あるいは、川口の正面に飛んでいったシュート、すべてとは言わないが、それらのほとんどは、川口のポジショニングの良さによって誘発されているものが多いのだ、という点に注目して欲しい。